ごねんぶりにどめの

時代を嘆くなって、言ったじゃないか!

あなたの恋をわたしは許せるのだろうか―朝井リョウ著『武道館』を読んで―

 

熱愛報道。炎上。特定班。多くの人の目に晒される世界で生きる、わたしの好きなアイドルたち。

どうしてわざわざ他人から消費される世界を選び取って生き続けているのだろう、と、以前ふと考えたことがあった。

確かこれは、WiNK UP4月号で二階堂さんが『キスマイ超BUSAIKU!?』について“昔からのキスマイのファンの人が見たら「ジャニーズがこんなことやっていいの?」って思うかも(笑)”“みんなからも、あったかい目で見てもらいたい”と話しているのを読み、その後同日に更新されたジャニーズwebの玉森さんの連載ページで、玉森さんの誤った目撃情報が拡散された結果、原宿の竹下通りに多数の人が集まり騒ぎになった件について玉森さん自身が謝罪した、という流れを受けて思わずこぼしてしまった呟きだったと思う。

 

朝井リョウ著『武道館』を読み終え、わたしは再び同じことを考えた。「あなたたちはどうしてこんな不自由な道を選び取ったのか」と。

武道館 (文春文庫)

武道館 (文春文庫)

 

 

本作では、女性アイドルグループ『NEXT YOU』にまつわる様々な事態が、所属メンバーの一人である日高愛子の視点から語られる。メンバーの脱退、容姿の劣化、炎上、スキャンダル、違法DL、等々。ジャニーズに限らず、アイドルを好きでいれば誰しもが現実で起こった出来事を想起してしまうようなイベントが次々に起こっていく。

引用したい文章はいくつかあるのだが(ツイッターでここに書けなかったことをぽつぽつ話そうかと思っていて、それくらい書きたいことはある)、その中で最も短い言葉でわたしを刺したのは、愛子を“悪く言ってくる人”がその人の“頭の中にいる自分(=愛子)”に対して何を思っているかを、愛子自身が想像した場面で書かれていた一文だった。

アイドルにお金を注いでいるファン以上に、幸せになってはならない。

朝井リョウ『武道館(文春文庫)』p337

 わたしは、アイドルを悪く言う人だけではなく、好意を持つ我々ファン側にも、そのような気持ちが全くないわけではないと思った。特に恋愛や結婚に関しては。

アイドルが、ファンの知らぬ存ぜぬところで誰かを好きになり、関係を持つ。ファンはその結果だけを知らされて(しかも公式よりも先に週刊誌が情報をばらまく場合が多々ある)、悲しんだり怒ったり大したダメージを受けなかったり祝福したり、人によって様々な感情を持つ。

現実ではけして明かされないその“知らぬ存ぜぬ”瞬間が、本作には登場する。アイドルがただの女の子に成り果てる瞬間。無意識レベルで好意を寄せていた男の子を、恋愛感情として「好き」であることをはっきりと自覚し、しかも「触れられたい」「抱かれたい」とすら思っている自分に気付いてしまう、その瞬間。

わたしはこの場面で、見てはいけないものを見せられている気持ちになり、思わず手にしていた文庫本を放り投げて逃げだし身を隠したくなった。本当なら、ただそこでページを捲る手を止めて読書を中断すればいいだけなのに。現実ではどんなスキャンダルが目に留まっても素知らぬ顔をするのに、フィクションでこれほど動揺するとはどういうことだと、自分の身に起きていることながら大いに混乱した。

恋をする。キスをする。セックスをする。これは我々の生活の中で当たり前に起きていて、何なら特別なイベントというよりむしろ日常の一部であるはずなのに、「これがもし、わたしの応援している○○だったら」と小説の登場人物に現実に生きる人間をうっかり投影してしまうだけで、アイドルとして遠くに存在する彼(人によっては彼女かもしれない)との距離が一気に縮まってしまう。きらきらのアイドルが、日常の色に染まりただの人になる。普段スキャンダルに動じない自分ですら、うっかり「あなたがそんなことをしているはずはない」と現実味のかけらもない妄想を押し付けてしまいそうになった。心の奥底にしまい込んでいる「手の届かない遠い世界の人でい続けてほしい」という願いを、思わぬ形で暴かれた気がした。

 

以前までは「ジャニーズ=結婚しない(結婚できない)」という方程式が成り立っていたように思うが(例外もいたが)、ここ数年で結婚を発表する人が増えてきた。誰ならOKで誰ならNGなのかは計りかねるが、少なくとも自分含め「担当の結婚発表」という事態に見舞われる可能性は今後ゼロではない。そして結婚に至るまでには、その過程として恋愛関係が成立していた期間があるはずだ。

誰かと恋をしてその人との結婚を決めた担当に、その時わたしは何を思うのだろうか。ただただ拍子抜けし腰を抜かすのだろうか。それとも今は想像できないような悲しみを覚えるのだろうか。はたまた、手放しで素直に喜べてしまうのだろうか。

いくつものパターンを想定し、どれだけ心の準備をしても、結局自分がどうなってしまうかはその時になってみなければ分からない。でもできることなら、あなたがあなたの好きになった人と幸せになることをすんなり祝福できるファンでいたいなと、良い人ぶったことを思っている。

 

 

 

余談だがツイッターはてなブログのアカウントを持つジャニオタの中では認知度の高いであろうあややさんも過去に『武道館』についての記事を書いているので、こちらも読んでみてほしい。