ごねんぶりにどめの

時代を嘆くなって、言ったじゃないか!

オタクには欲しいものが山ほどあるから結婚指輪は辞退した

 

水曜日、南海キャンディーズ山里亮太さんと女優蒼井優さんの結婚報道が世間を賑わせた。報道が出たばかりの朝の時間帯は驚きの声が多かったが、その日の夜に開かれた記者会見を受けて一気に祝福ムードが増幅された印象がある。ノーカットで会見を見させてもらったが、全体を通して微笑ましく心あたたまる記者会見だな、と思った。

個人的にいちばんグッと来たのは、記者に「結婚指輪は?」と聞かれた時の蒼井さんの回答だった。

 

結婚指輪については「お断りしました」と明かし「買ってくださると言ったんですけど、私大切なものって絶対なくすんですよ。年内になくす自信があったので。もし、それだとしたら、また何かを一緒に経験することに使ってほしいかなと」と真意を説明した。 

蒼井優、両親への結婚報告で涙 結婚指輪は辞退「年内になくす自信があった」 | ORICON NEWS

 

脇道に逸れるが、少し自分の話をさせてほしい。

今年の1月、大学時代から付き合っていた人と結婚した。結婚した後、知人に結婚したことを伝えると、「指輪は?これから買うの?」と聞かれることが何度もあった。デパートに置いてある様々な店舗のリングが掲載されたパンフレットを「せっかくだしこれ見てみなよ」と渡されたこともあったし、「あのブランド、わたしの友達で買ってる人が多いよ」とおすすめのブランドを紹介されたこともあった。

その時から今まで変わらず、わたしの左手薬指には何もついていない。これからもつける予定はない。

「結婚指輪、なぜあんなに高そうなものを結婚したというだけで買わねばならぬのだ……?」

結婚する前からずっとそう思っていたし、『結婚する』と『指輪』の間をつなぐ等号の意味を、結婚してもいまいち理解できなかった。

わたしは装飾品の類に興味がなく、普段身につける習慣がない。興味がないものに投資する余裕はない。興味のあることに“だけ”は常に全力ダッシュする、根っからのオタク気質の人間だからだ。

とにかくオタクは忙しい。ある日は円盤の発売が告知されれば即座に予約、またある日は推しの出演している映画鑑賞、またある日は遠路はるばるライブ参戦。

時期によって波があったり個人のスタンスにもよる部分もあったりするが、基本的にオタクをするには金は要る。稼いだ金をどこにどう使うか優先順位を考えながら日々暮らしている自分にとって、『結婚指輪』の順位は『円盤』『ライブ』『映画』等々よりもはるかに低かった。もし買ったとしてもすぐにしまい込まれる未来しか見えないものに価値を見いだすことが出来なかった。

そういう理由でわたしは結婚指輪はいらなかったし、幸いなことに結婚相手も特別必要だと考えていないようだった。結婚することが決まり、さて指輪はどうするかという話をしなかったわけではないが、結局我々は指輪を選びに行くことすらしなかった。

ちなみにほぼ同じ理由で結婚式もしていない。親族との話し合いで「写真くらいは残した方がいい」と言われ、それで納得してもらえるならと写真だけは撮ったが、写真を撮るだけでもそれなりの費用がかかったことに加え準備段階での精神的疲労もあったので、「こんなんで結婚式とかしたら金銭面をはじめ色々な意味で死ぬ……やはりわたしにはムリだった……」と改めて思った。

 

山里さんと蒼井さんの結婚会見に話を戻す。

前述した背景があり、「指輪よりも経験を買いたい」と話した蒼井さんの、結婚指輪の価値を別の何かと天秤にかける発想に共感した。

結婚指輪より価値のあるものってなんだろう。

たとえばわたしは、昨年から結婚相手をコンサートに連れて行くようになった。自宅で録画した番組やコンサート映像を一緒に見る機会が増え、好意的な感想も聞くようになったので、試しに誘ったら「1回くらいなら全然いいよ」と言われたので連れて行った。自分がキャーとかギャーとか叫んでいる横でぼんやり見ていたので「連れてこない方がよかったか……?」と心配したが、公演後に「○○が自分の方を見てくれた気がする!」とオタクにありがちな「ファンサもらった気がする」発言をしていて、「コイツ、それなりにオタクの素質あるのでは」と心の中でガッツポーズをした。

指輪よりもそういう体験の方が、自分にとっては価値がある。オタク友達とあれこれ感想を言い合うのとはまた違う、少し引いた視点から語られる新鮮さと面白さがある。

 

そもそもわたしは結婚願望が希薄だったにも関わらず結婚した人間なので、自分のように「結婚指輪いらなくない?」とひねくれた考えを持つのはもしかするとレアケースかもしれないが、結婚指輪でなくても「何に自分は投資したがっているのか」と機会ごとに考えることは大切だと思う。もちろんオタクでなくとも大切だが、オタクにとってはより重要性が増す。億万長者でもない限り、あれもこれも欲しがれば財布があっという間にスカスカになってしまう。

我慢はしなくていい。恋心に素直に従って全力ダッシュすることが、オタクの甘美な喜びとなることは身をもって知っている。でも、周りに左右されず自分が欲しているものを見極めるシビアな目をちょっとずつ鍛えていた方が、たぶん長く健やかに推しを応援できる気もするのだ。